気候変動

基本的な考え方

当社グループでは、製造時にエネルギーを多く消費する事業を行っていることから、パリ協定などに伴う各種規制・制度等(カーボンプライシング等)によるエネルギーや原材料などのコスト上昇につながるリスクがあります。また、近年の極端な気象現象による自然災害の発生により事業継続や供給が不安定になるなどのリスクにもつながると考えています。一方で、社会や顧客において気候変動への意識が高まることにより低炭素で資源循環型の当社鋼材に競争優位性が生じる機会にもなっていると考えています。

国内2030年・2050年環境Vision/サステナビリティ中期計画

高炉法と電炉法 CO2排出量の比較(2021年2月現在)

(出典)2019-21年度各社公表HP「環境への取組」「地球温暖化対策」他から引用

TCFD提言への対応

当社グループは2022年4月、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に賛同しました。TCFDは、主要25カ国・地域の中央銀行や金融監督当局などの代表を参加メンバーとする金融安定理事会(FSB)により設置され、その提言において気候関連のリスクや機会について情報を開示することを企業・団体などに対し推奨しています。わが国においても、経済産業省により「気候関連財務情報開示ガイダンス(TCFDガイダンス)」が公表されるなど、企業におけるTCFD提言への対応に向け動きが加速しています。また、日本取引所が2021年6月に改訂した「コーポレート・ガバナンスコード」においても、上場企業に対してTCFDの枠組みに基づく開示が求められています。
当社グループにおきましても、気候変動が事業に与える影響を踏まえ、2021年度より経営会議およびサステナビリティ委員会において国内事業における気候変動対策への検討を重ねてきました。2022年4月の取締役会において承認した、当社グループにおけるTCFD提言に基づく気候変動関連の情報開示は以下の通りです。

気候変動関連のガバナンス体制

当社グループは定期的に開催されるサステナビリティ委員会※1の環境部会において審議された気候変動問題に関する事項を、その都度、大和工業株式会社の取締役会に報告しています。取締役会は事業計画や年度予算などを検討する際、気候変動が経営に与えるリスク、機会といった影響を考慮し判断しています。また、取締役会はサステナビリティ委員会がサステナビリティ中期計画のマテリアリティとして定めた「気候変動」に関する目標や進捗を点検、監督しています。
サステナビリティ委員会の委員長は大和工業の代表取締役社長が、また環境部会の推進責任者はサステナビリティ経営推進室長が務めています。

※1 通常は年に1~2度の開催としており、2023年度は3回開催

気候変動関連のガバナンス体制

気候変動に関わるリスクマネジメント

当社グループは、事業における気候関連リスクをTCFDの提言に沿って、移行リスク、物理的リスクに分類し、さらに短・中・長期の時間軸及び関連する法規制等を考慮したうえで重要性を検証し、リスクを評価しました。リスク評価については、取締役・監査役が参加する経営会議において検討・協議の上、決定しました。

気候変動関連の戦略

<シナリオ分析の前提>
シナリオ分析においては、パリ協定目標やIPCCの第6次評価報告書を踏まえつつ、低炭素移行シナリオである2℃シナリオと、より高い温暖化結果とより重大な物理的影響を予測する4℃シナリオを軸に検討しました。なお、今後は「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力を追求する」と示すパリ協定目標を踏まえ、1.5℃に向けた移行シナリオについても検討を重ねていく考えです。

世界平均地上変化予測(1986〜2005年平均との差)

(出典)IPCC第5次評価報告書

<シナリオ分析の範囲>
シナリオ分析に当たっては、日本政府が掲げる温室効果ガス削減目標(2030年度46%削減、2050年度カーボンニュートラル実現)を踏まえ、2050年までの中長期の時間軸で検討を行っています。

  • ① 日本国内
  • ② 事業に与える可能性が高い気候変動に伴うリスクと機会
  • ③ バリューチェーン全般にわたる潜在的な気候変動の影響

を分析範囲としました。
現時点での分析内容は以下の通りです。

気候変動関連シナリオ分析

シナリオ 対象要因 当社への影響 リスク・機会/影響への対応
2℃※2 要因①顧客/社会の脱炭素・気候変動対応を促進する製品需要の拡大
気候変動への対応がバリューチェーン全体に拡大し、環境負荷の低い製品・環境対応を行う企業が選択されることで競争環境が変化する
防災・減災対応のインフラ建設がゆるやかに進む
機会
競争優位の拡大
  • 気候変動緩和のための各種規制・制度等の導入、社会的意識の高まりに伴う低炭素・循環型鋼材の需要拡大
  • 競合他社が減産・撤退することによる競争環境好転、シェア拡大
  • 低炭素化に貢献する循環型製品の優位性の高まりを受け、増加が見込まれる自国内のリサイクル鋼材需要の着実な取り込み
機会
市場の拡大
  • サプライチェーンの多様化による原料調達網の強靭化
  • 顧客に当社の気候変動に対するレジリエンス(強靭性/対応力)が評価されることによる製品需要の拡大
  • 災害に備える建設需要の拡大
  • 気候変動緩和・省エネに資する環境認証製品(エコリーフ・カーボンフットプリント認証)の拡販
  • 河川・港湾の護岸や土留に使用される鋼矢板等の防災・減災対応製品の拡販
要因②カーボンプライシング
政策・法規制(カーボンプライス)により電力小売価格等各種コストが上昇する
リスク
操業コストの増加
  • エネルギーコストの上昇
  • 気候変動対策要請による設備投資コストの増大
  • 原材料・副資材の逼迫
  • 調達分散化の検討
  • スクラップ配合比率の最適化による原材料・副資材の使用量削減及び原料コスト低減
  • 顧客と価格転嫁について交渉
  • 製造工程の自動化による省エネの推進、省エネ設備の導入
  • M&Aを含む再エネ投資の検討
要因③高炉の電炉シフト
高炉メーカーが電炉へシフトすることで原材料・副資材・エネルギー調達に影響が出る
要因④社会的要請の高まり
CO2削減に対する社会的要請が高まり、低炭素/脱炭素化へ向けた材料・生産プロセスの転換が進む
リスク
材料や生産プロセスの転換
  • 低/脱炭素化へ向けた材料、生産プロセスの転換
  • 脱炭素プロセスにおける革新的な新素材の開発による当社既存技術の陳腐化
  • 製品製造時のエネルギー使用量の最小化や再生可能エネルギー利用等の要求
  • 今後新規開発されるローコストのアンモニアや新エネルギーに対応する設備導入対応の遅れ
  • 電力会社依存のビジネスモデルにより、再エネ由来電気の要求・義務化に利用電力会社が対応できない場合のグリーン証書購入等のコスト増
  • 電力・燃料原単位の低減
  • 省エネ、低炭素技術への投資促進
  • 事務所・倉庫等への再生可能エネルギー導入の継続検討
機会
経営の効率化
  • 効率的な生産販売プロセスへの転換による生産能力向上、製造・輸送コストの削減
  • 電力会社の2050年までのゼロカーボン化に伴い当社の低炭素化が進み、企業評価・イメージ向上による投資家の増加、製品販売の拡大、優秀な人材の確保が実現
  • 圧延ラインの大規模更新・設備の自動化・DX推進等、省人化及び品質・歩留まり向上を実現する効率的な生産プロセスの導入
  • より環境負荷の少ない輸送手段としてトラックから船便、鉄道コンテナ便へ転換を検討
4℃※3 要因⑤自然災害の激甚化
自社拠点及び販売・調達物流網における物理的リスク(浸水、物的損害)が顕在化する
予防・対応コストの増加
労働中の熱ストレスにより、生産性が低下するとともに、その対応策として規制が強化される
リスク
異常気象による操業遅延、停止
  • 豪雨や大型台風など自然災害による生産設備の故障、販売・調達物流網の機能麻痺等に伴う操業の停止
  • 冠水・洪水対策コスト、サプライチェーン再構築コスト、支払い保険料の増加
  • 気温上昇等による現場勤務者の熱中症リスクへの配慮・予防コストの増大
  • 大型台風や豪雨などの風水害頻発による社員の安全性確保
  • 自然災害への対策の継続的な実施
  • 損害保険への加入(実施済み)及び災害激甚化を踏まえた契約内容の見直しの検討
  • 自社工場における物理的リスクのアセスメントを実施
  • 災害発生時、工場で生産が困難になった場合及びサプライチェーンが一部寸断され原材料・副資材が調達困難となった場合、海外グループ会社からの調達により事業継続を可能とする
  • 工場における壁面換気構造の導入、空調服の採用、オペレーター室の改善(空調や冷蔵庫の設置)等による労働環境の整備(実施済み)
要因⑥国土強靭化
防災・減災計画の見直しが進み、政府主導によるインフラ等への災害対応が普及
機会
市場の拡大
  • 災害に備える建設需要の拡大
  • 河川・港湾の護岸や土留に使用される鋼矢板等の防災・減災対応製品の拡販

※2 2℃シナリオ:産業革命時期に比べて気温の上昇を2℃以下に抑制するために必要な対策が講じられるシナリオ
※3 4℃シナリオ:気候変動に対して特別な対策が講じられず平均気温が4℃程度上昇するシナリオ

<「機会」への取り組み>

競争優位の拡大、市場の拡大

日本国内においても2050年カーボンニュートラル実現へ向かう動きが加速し、顧客である建設業や運輸業などでは低炭素に貢献する製品の調達が増加すると見込んでいます。そのような中、当社グループは業界に先駆けた取り組みにより、市場の拡大を図ってきました。例えば気候変動関連において、一般的に電炉メーカーの製造工程における鉄1トン当たりのCO2排出量は高炉メーカーの約4分の1ですが、ヤマトスチールでは大幅な省エネルギー化を実現する最新鋭の単段式炉頂スクラップ予熱装置(SSP)を2019年度から採用するなど合理化設備の導入を進め、CO2排出量を高炉法と比較しトン当たり約6分の1にまで低減することを実現しており、電炉業界においても優位性を確保しております。また、環境負荷の少ない製品を生み出している企業選別が想定される中、「エコリーフ」「カーボンフットプリント」2種類の環境認証を国内鉄鋼業界で初めて取得するなどの取り組みを行ってきました。引き続き気候変動への対応を行い、競争優位性により事業機会を獲得し、市場の拡大を図ってまいります。
当社グループの気候変動における競争優位性、取り組みは下記も参照ください。

鉄のサーキュラーエコノミー実現へ

<「リスク」への取り組み>

エネルギー利用効率化

当社グループの事業には大量の電力が欠かせません。今後のエネルギー政策や法規制の動向によって、電力小売価格等が上昇した場合は操業コスト等に大きく影響すると認識しています。当社グループは、これまでもエネルギーの効率的な利用のために設備導入から燃料転換、技術確立に至るまで様々な取り組みを実施してきました。これによって、CO2排出量の総量はもちろん、粗鋼生産1トンあたりのCO2排出原単位においても成果が表れています。今後さらなる脱炭素化の社会的要請の高まりを背景として、以下のような当社グループの過去から現在、今後に向けた取り組みは、リスク低減につながると考えています。

  • ・低NOxリジェネバーナー導入(2001年3月〜)
  • ・LNGへの燃料転換(2006年1月〜)
  • ・圧延加熱炉低温操業技術の確立(2013年〜)
  • ・工場内設備のLED化(2018年〜)
  • ・単段式炉頂スクラップ予熱装置(SSP)の導入(2019年1月〜)
  • ・排ガス分析装置導入によるダイナミック制御技術の確立
  • ・再生可能エネルギーの活用

これらの取り組みを実施した結果、2023年度のエネルギー消費量は0.115GL、エネルギー原単位は0.186kL/t-粗鋼生産量でした。

エネルギー消費量・原単位推移

指標とターゲット

シナリオ分析に基づき、気候変動関連の指標とターゲットとしてサステナビリティ中期計画の中で中期目標と年度目標を設定し、サステナビリティ委員会で進捗状況を把握・検証し取締役会に報告しています。CO2排出量削減目標については、当社グループの事業特性やこれまでの取り組み状況、今後の社会動向を勘案し、まずは2025年をターゲットにScope1、2において2013年比38%削減を目標として設定しました。

CO2排出量・CO2排出原単位(5年間の推移)

※4 自社での燃料の使用や工業プロセスによる直接排出
※5 自社が購入した電気・熱の使用に伴う間接排出

(注1) 国内鉄鋼事業を対象としています。電炉は事業の特性上大量の電気を使用することから、電力会社の電源割合による影響を大きく受けます
(注2) 経済産業省「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(省エネ法)に基づく算出方法に基づき、算定しています

サステナビリティ中期計画「気候変動」

マテリアリティ 項目 2025年度 2024年度
中期目標※6 年度目標※6
気候変動 気候変動リスクへの対応 2025年度までに、気候変動に伴う移行リスク、物理的リスクによる財務的影響を開示する
  • TCFD提言に基づきカーボンプライシングが導入された場合の潜在的影響額の算定およびリスク対応費用の開示を継続する
温室効果ガスの排出削減 CO2排出量を38%削減する(2013年度比)※7※8
  • CO2フリー燃料(水素・アンモニア等)を使った次世代工業炉開発の状況やCO2フリー燃料のサプライチェーン拡充の状況を捕捉する為に、引き続き専門業者や大学の研究機関との連携を実施する
  • Scope1及びScope2は、国内連結子会社全てのGHG排出量を開示する
  • Scope1及びScope2は、海外連結子会社のSYSは全てのGHG排出量を開示し、新たな拠点であるインドネシアは全てのGHG排出量算定の仕組み作りを整備する
  • Scope3は、ヤマトスチール単体を対象に算定・開示を実施する
エネルギー利用効率化 CO2排出原単位を20%削減する(2013年度比)※7※8
  • 同上
再生可能エネルギーの活用 2025年度までに、再生可能エネルギーを一部の事業部門に導入する
  • 太陽光発電設備及びシステム導入後の運用体制を整備する

※6 特段の記載が無い限り、大和工業グループにとって最も影響の大きい鉄鋼事業を対象とした記載となります
※7 日本政府の削減目標に従い2013年度を基準年としています
※8 Scope1・2合計を対象。電炉は事業の特性上、大量の電力を使用することから、電力会社の電源割合の変動による影響を大きく受けます

大和工業グループの温室効果ガス(GHG)排出量

Scope1,2 GHG排出量(2023年度)

(単位:千t-CO2e)

Scope1 Scope2 Scope1+2
鉄鋼事業(日本) 100.51 119.37 219.88
軌道用品事業 0.05 1.36 1.41
その他 0.81 0.32 1.13
国内拠点合計 101.38 121.05 222.43
鉄鋼事業(タイ国) 127.61 212.45 340.06
総計 228.99 333.50 562.49
  • 当社(大和工業)及び国内外主要連結子会社5社(ヤマトスチール、大和軌道製造、大和商事、松原テクノ、Siam Yamato Steel)を対象としています。集計期間は各社の会計期間に従います。
  • 当社及び国内子会社は温暖化対策の推進に関する法律で定める係数を使用し、エネルギーの使用の合理化等に関する法律に基づき、算定しています。
  • タイの連結子会社Siam Yamato Steel(SYS)は、TGO (Thailand Greenhouse Gas Management Organization)により提供される係数・算定方法に基づき算定しています。
  • SYSは、国内鉄鋼事業よりも生産量が多いこと、排出係数が大きいこと等が要因で排出量が多くなっています。

Scope3カテゴリ別 GHG排出量(2023年度)

(単位:千t-CO2e)

カテゴリ 排出量 算定概要
1 購入した製品・サービス 156.85 主要原材料・補助原材料等の購入品
2 資本財 8.32 建設、購入した資本財
3 Scope1,2に含まれない燃料及びエネルギー活動 35.26 使用した都市ガス、灯油、電力
4 輸送、配送(上流) 17.52 主要原材料・補助原材料、および製品の調達物流及び出荷物流
5 事業から出る廃棄物 1.19 算定対象から出る産業廃棄物
6 出張 0.05 従業員数から換算した相当量
7 雇用者の通勤 0.17 従業員数・勤務日数から換算した相当量
12 販売した製品の廃棄 0.89 出荷製品の重量から換算した相当量
合計 220.26
  • ヤマトスチール株式会社の国内拠点(本社・工場、東京支店、大阪支店)を算定対象としています。
  • 集計期間は、会計期間に従います。
  • 算定方法は、環境省「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン(ver.2.6)」、
    「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(ver.3.4)」、
    産業技術総合研究所「LCAデータベース IDEA ver.2.3(サプライチェーン温室効果ガス排出量算定用)」を参照しています。

  • 温室効果ガス排出量 検証報告書(PDF:1613KB)


クリーンなエネルギー源の利用

当社グループでは、電力を多く消費する事業者として、再生可能エネルギー等のクリーンなエネルギー源の利用拡大を推進しています。ヤマトスチールでは、3MW規模の太陽光発電設備及びシステム導入を計画しており、更に将来の再生エネルギー導入拡大を見据えたSVC(電圧フリッカ対策などに用いる静止型無効電力補償装置)を導入致しました。
また、SYSでは、発電能力5.6MW規模の工場屋根への太陽光発電設備を稼働させており、2023年度の年間発電量は7.1GWh/年で年間2700t-CO2の削減効果を得ています。

<稼働中の太陽光発電(2023年度)>

  • Siam Yamato Steel :工場屋根への設置 5.6MW

  • <太陽光発電計画(2024年度以降の導入計画)>

    • ヤマトスチール  :工場屋根への設置 3MW
    • 大和軌道製造   :工場屋根への設置 185kW
    • Siam Yamato Steel :工場屋根への設置 1.6MW
                水上太陽光発電プロジェクト 12MW

工場屋根への太陽光発電設置(SYS)  

発電能力推移