TOP INTERVIEW
共にすれば生きる
── POSCO×大和工業が描くグローバル戦略
POSCO YAMATO VINA STEEL JOINT STOCK COMPANY
Seo Kyeongcheol General Director
POSCO YAMATO VINA STEEL(PY
VINA)は、韓国最大手の鉄鋼メーカーであるPOSCO社との合弁会社で、2020年に設立されました。POSCO社はこれまで世界各国で薄板をはじめとする様々な鉄鋼製品の製造を手掛けてきた世界有数の企業として知られています。2020年に発足した同社との合弁会社であるPY
VINAには大和工業だけでなく、東南アジア市場に知見のあるSYSからも出資しています。
PY
VINAはメイン事業であるH形鋼の製造・販売に加え、ベトナム国内での電力需要が高まるなか、送電鉄塔に使われる山形鋼の供給を通して、電力インフラ整備に貢献するとともに、2023年6月にベトナムの鉄鋼メーカーとして初めてEPD(Environmental
Product Declaration・環境製品宣言)を取得し、欧州・豪州などの環境配慮製品への需要が高い地域への販売促進を進めています。
国内外顧客の環境保全への意識が高まるなか、PY VINAがベトナム鉄鋼業界をリードしています。

苦境からの再生―PY VINA設立の背景ー

大和工業グループとの合弁会社設立以前、PY VINAの前身であるPOSCO
SS-Vinaはベトナムでの事業を始めてから、5年間続けて大規模な赤字を記録しました。赤字の原因は技術力を土台にした原価競争力が確保されなかったためであり、形鋼事業以外に多くの国内ミルが競合し、供給過剰状態だった鉄筋事業があったからです。
POSCOグループとしては事業撤退を検討せざるを得ない状況でしたが、大和工業グループはベトナム市場の成長性とパートナーとしての資質を高く評価し、POSCOグループとの協業を決めてくれました。
ベトナムを含むアジア市場は、グローバル生産基地の役割を担ってきた中国に代わる市場として、世界中の企業の注目を集めています。中でもベトナムはインフラがよく整備されており、優秀な労働力を安い人件費で集められる国です。毎年安定的に5%以上のGDP成長率を記録しており、海外からの直接投資も増加、既に1億人の人口を有しており、現在低迷している世界経済が回復局面に移行する場合、真っ先に成長する地域だと思われます。
このようなベトナム市場でPY VINAは唯一の形鋼生産ミルとしての地位を確立しています。
さらにPOSCOグループは高い技術力に加え、ベトナムの様な成長市場での事業運営やグリーンスチールを始めとしたグローバル経営環境の変化に対応する総合力を持った企業です。
こうした地域的なメリットと大和工業グループのPOSCOグループへの高い評価が、PY VINAの設立が実現できた背景だと私は思っています。もちろんPOSCOグループにとっても優れた技術と財務基盤を持ち、グローバル経験豊富な信頼できる企業である大和工業グループだから、進んで手を握ることになった理由だと思います。
2020年4月の設立以降、PY VINAは再起に成功しました。その背景となったのは大和工業からの経営的、技術的な多くの支援があったからだと思っています。
特にPOSCOグループの電気炉と形鋼圧延に関する知識と経験は多くない為、今もCPOをはじめ、タイのSYSからの技術支援を頼りにしています。これらの成果は全て合弁により得られたものだと考えています。
”答えは現場にある”
私は毎朝出勤すると、まず生産ラインをチェックします。私はエンジニアではありませんが、現場で起こっている事を理解し、少しでも多くのノウハウを吸収したいと考えています。また、私はデータ分析が大好きであり、正確なデータ分析は意思決定に重要な洞察を与えてくれると信じています。
特に、PY VINAのように生産現場を持つ企業では、すべての動きがデータとして現れます。これを把握し活用することで、より精度の高い経営判断が可能になると考えています。
現時点で主要な技術データをPY VINAと大和工業グループで比較してみると、小学生と大学生程度の格差があると感じています。歩留、電力・ガス原単位、品質不良率等、すべての面でPY VINAが学んで改善していくべきことが山積みであると認識しています。技術力以外にも、原材料の購入や製品の販売においても、大和工業グループが長年苦労し、構築してきたノウハウとネットワークがあり、これはPY VINAがすぐに真似できるものではありません。
しかし、PY VINAは早いうちに十分に自立することができる底力を持っている会社だと思っています。現在の難しい市況において、多くのハンディを持っているにも関わらず、競合他社と比べ大きく見劣りしない点が証明してくれています。
「答えは現場にある」という言葉が私の信念であり、大好きな言葉です。大和工業グループの技術力を一日も早く学ぶ為、努力していきたいと思っています。

持続可能な発展への道

大和工業グループは「電気炉」と「市場」という二つの重要な要素を武器に、確実な競争優位性を確立しています。アメリカやアジアで発展可能性のある市場を競合他社よりも先取りし、戦略的に事業環境を構築していく実行力は、大和工業グループの強みです。
また、多くのグローバル鉄鋼メーカーが、二酸化炭素排出量削減のために電気炉技術に注目しています。しかし、昨今の通商問題を踏まえると、現地生産が求められる現在の市場環境においては、大和工業のように「電気炉」と「市場」の両方を持つ企業こそが、持続的な競争力を確保できるのです。
一方で、PY VINAには克服すべき課題もあります。設備の制約による生産サイズの制限、原価競争力を支える技術力の不足、安定的に高品質な原材料の調達力──これらは、成長のために解決しなければならない重要なテーマです。
しかし、大和工業グループの各拠点との協力を通じて、これらの課題は補完されるはずです。特に、原材料の共同購買、半製品・製品の相互活用、市場の共同開発を推進できれば、PY VINAは遠くない未来により大きく成長し、発展する企業となると確信しています。
現在、私たちの最大の課題は、鉄筋事業撤退後に残った余剰な製鋼生産能力の活用です。圧延ラインの増設検討が必要な状況ですが、ベトナム市場の形鋼需要が成長するまでにはまだ時間がかかります。そのため、増設のタイミングを慎重に見極める必要があります。いつでも適切な投資判断が下せるよう、大和工業のASEAN300万トン体制に貢献できる方策を研究していくことが求められます。
共にすれば生き、散らばれば死ぬ
韓国には「共にすれば生き、散らばれば死ぬ」という諺があります。
これは、協力し合うことの重要性を端的に表した言葉です。
POSCOグループと大和工業グループが手を携え、この市場基盤をさらに発展させる道を共に模索していくことこそ、私たちの未来にとって不可欠です。さらにESG経営の観点からも、PY VINAが地球環境の保全と従業員の安全を最優先に考える経営を通じて、地域に根差した持続可能な成長と最大の収益を生み出す企業でなければならないと考えています。
しかし、PY VINAは早いうちに十分に自立することができる底力を持っている会社だと思っています。現在の難しい市況において、多くのハンディを持っているにも関わらず、競合他社と比べ大きく見劣りしない点が証明してくれています。
また、POSCOグループも新たなグローバル戦略の構築に取り組んでいます。私は、PY VINAにおける両社の協力関係がさらに深化し、今後のグローバル市場における新たなパートナーシップの礎となることを心から願っています。
